「ティール組織」から事業再生を考える

昨今話題になっている「ティール組織」という書籍がある。今年の1月に出版後、マネジメントの分野でダントツの売上1位を記録し、一般書籍を含むランキングでも上位を席巻している。すでにこの分野では異例の3万部以上売れており、国会質疑(参議院予算委員会)でも取り上げられ、さながらBuzzword化の様相を呈している。内容や評価等については既にネット上でも様々な意見が飛び交っており、詳しい内容は書籍の一読をお勧めするが、「ティール組織」とは新しい未来型の組織形態であり、すでに世界中で取り入れている企業の実例が上げられている。各人が自立分散して動き、マネジメント負荷も下がり、生産性や業績も上がるといった効果もあると言われている。これまでの組織形態で重視・常識とされていた目標達成にこだわる、PDCAサイクルの重視、ピラミッド型組織に見られる縦横階層などがなく、さながら組織そのものが生命体のように対応していくといったことが書かれている。
一方で、「このような組織形態を成立させることは現実的に可能であろうか?」という疑問や問いも当然あるだろう。「ITソフトウェア企業やベンチャー企業ならまだしも、製造業や建設業などの従来業種、歴史の古い企業などではハードルが高いのではないか」、「経営資源や規模の限られる中小企業にはそのような余裕はないのではないか」、更に言うと「業績改善や抜本的立て直しを必要とする経営改善・事業再生過程の企業には夢物語ではないか」、こうした意見に対して絶対的な回答はないことも事実である。所詮、机上の空論ではないかと言われても仕方がない面もある。
では改めて、この本の視点から疑問に答えていくことを試みる。この「ティール組織」においては、成立させるための突破口(ブレイクスル―)があると書かれている。「存在目的」「自主経営(セルフマネジメント)」「全体性(ホールネス)」の3つである。この3つを簡単に要約すると以下になる。

  • 「存在目的」:自社がどのような目的で存在しているのか、世の中に役立っているのかを
    常に確認する。
  • 「自主経営(セルフマネジメント)」:各人が問題や課題に気づき、主体的に取り組みをしていく。
  • 「全体性(ホールネス)」:職場の心理的安全性を確保し、各人が全身全霊で取り組む。

これは、どこの企業・会社でも理想とする形態に近いことをエッセンスとして指摘していると言える。事業再生過程の企業においても、その会社が社会から利益を受け取れる仕組み(ビジネスモデル)を明確にし、社内の方向性を定めて、社員各自の能力や意欲を最大化していく基本・本質は変わらない。
この本に指摘している事例やアイデアは現実ではまだまだレアケースではあるものの、企業が本来の目的を自覚して、常に状況を省察・内省し、行動していくことにより、企業の発達段階も上がり、より良い組織を構築していく端緒を示唆している。そして、事業再生に取り組む過程であるからこそ、変革の方向性として「ティール組織」のような新たなる組織進化段階を見据えておく必要があるのではないか、当然それは事業再生に携わる私たちにも問われていることではないか、と考える。

中小企業診断士 安田健一

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