習慣が問題を見えにくくする

先日、急激な腰の痛みに襲われ接骨院に行きました。その接骨院は、私が講師を務めた創業スクールの受講生で、1年前に開業した若手の先生です。その先生に症状を伝え、とりあえず痛みをとりたいとお願いしました。何しろ、屈んで物を拾うこともできず、ズボンもはけないくらいでしたので何とかしてほしいとすがる思いでした。なぜそんなに必死になったかというと、私は20代のころにギックリ腰を経験しているからです。あの時の辛さ・痛みはもう二度と経験したくない、何とか動けるうちに、と思ったからです。

その時の治療の経験から、当然電気治療や腰のマッサージなど、痛みのある所に治療をしてくださると期待していったのですが、先生はまず私をまっすぐ立たせ、姿勢をみた後、仰向けに寝かせ片膝を抱えて、もう片方の足を先生が少し負荷をかけ、曲げ伸ばししたり、横向きに寝かせ足首を固定し、足を閉じたり開いたりさせたのでした。正直、痛みとは全く関係ない箇所、しかも運動をさせるので、若干の不安を覚え、「痛いのは腰なんですけど…」と聞いてみました。

すると、私の腰の痛みは、骨盤から伸びている膝から腿裏の筋、そして体の前部の股関節の筋が固すぎて常に少し縮んだ状態であることから、柔らかい筋肉である腰から曲げてしまう癖がついてしまい、痛みが出やすいと解説してくれました。本来は骨盤から曲げることが大切なんだそうです。実際、先生が私に施した運動によって、筋が温まり、その後マッサージをしてくださったことで股関節の裏表が柔らかくなり、うそのように痛みが少なくなりました。私は正直に思ったこととその非礼を詫び、人間の体って不思議ですね、という話をしたところ、赤ちゃんの話をしてくださいました。

赤ちゃんは最初泣くことしかできないから全力で泣く。でも、いきんで泣くことで、体の中心の筋肉(首・おなか、背中)が鍛えられる。そうすることで首が座り、頭を動かすことができるようになる。そのことが肩周りの筋肉を鍛え、ハイハイができるようになる。ハイハイができるようになることで全身の筋肉が鍛えられ、立つことができるようになる、ということでした。一説では、赤ちゃんは生きることで毎日筋トレをしているようなものだ、という赤ちゃん筋トレ最強説もあるそうです。今できることを精一杯やることで徐々に成長していくということです。

逆に、成長することで、いろんな筋肉が使えるようになるので、無理な態勢を維持することができてしまったり、痛みを我慢したり、加齢による柔軟性の低下などにより、自分の意志で筋肉の動きを制御してしまい、それが癖となってしまうので、肩こりや腰の痛みが発生するそうです。
これは体の使い方だけではなく、経営にも置き換えることができるのではないでしょうか。創業当初はできることも限られており、それを真摯に行うことで成長をしていく。しかしある程度の企業規模になると、できることの範囲も広がるので、小さなレベル、かつすぐに修正ができると思われる諸問題はどうしても後回しにしがちです。そして、それを放置し、見直しや再検討をしないまま過ごしてしまいます。その結果、売上・利益といった数字に表れて初めて問題に気が付く、といったことが往々にしてあります。そして、その対処法が適切であれば良いのですが、今まで大きな問題として認識せず見過ごしてきたため、根本的な原因を発見し、対処することが難しくなってしまうのです。しかも、放置していた期間が長ければ、問題が日常業務の中に入り込んでしまっているため、「何が間違っていたんだろう」と疑問に思うこともなくなり、正しい対処方法を金融機関や支援機関等外部関係者からアドバイスされたとしても、「見当違いだ!」と思ってしまう結果に陥りかねません。

今回の私の腰痛治療も同じでした。一時的な痛みがつらく、すぐに楽になりたいがため、根本的な解決(治療)方法に対して疑問を持ってしまったのです。ちなみに、腰痛・肩こりは生活習慣による影響が大きいそうで、日々の体の使い方を正しくすることで軽減したり、治したりすることができるそうです。

赤ちゃんの理にかなった身体の使い方から、現状の身体の使い方を判断し、治療する。同じように、創業当初といった原点に立ち返って、現在の経営状況を判断する。こういったことが、経営を安定させるコツなのかもしれません。

中小企業診断士 東野 礼

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