働き方改革が与える影響

「働き方改革関連法案」が6月に国会で可決、成立した。対象業務と年収要件、健康確保のための一定要件をクリアすれば残業代の支払が不要になる「高度プロフェッショナル制度」が法案に含まれ、残業代ゼロ法案として、労働者が不利になるという印象を持たれている方も多いと思うが、1075万円以上の給与をもらう社員がいない企業にとっては、むしろ労働時間に多くの制約を課すものとなっている。

例えば、月に60時間以上の残業における割増率の引き上げ(25%から50%へ)、年5日の有給休暇の取得義務等は中小企業にも適用され、人件費の増大を避ける事はできない。
また、同一労働同一賃金で業務内容に応じて賃金が支払われる原則が適用され、パートタイムやアルバイトに対してどのような待遇を行うべきかが問題になり、
長時間労働が法律である程度許されていた、建設業や自動車運転に関しても残業時間上限規制の猶予措置の撤廃など、会社の運営に直接響きそうな項目も含まれている。
その他まだ決定していないが、未払い賃金の消滅時効が5年に延長されるとか、定年の延長も法律で規定される可能性もある。

これらの法案を概観した時、企業に対して「労働時間の減少」や「待遇の改善」を要求している事がわかる。つまり「労働生産性を上げないと、人件費の増大で会社が苦しくなりますよ」と言われているといっても過言ではないと思う。
労働生産性を上げるためには、設備投資やIT化を推進する事が対応策として考えられ、事実「ものづくり補助金」等の施策も推進されている。しかし、今後、政策の変更も無いとは言い難いので「ものづくり補助金」だけを当てにするのは危険である。むしろ、各従業員の能力を高め、人員配置を検討し、生産性の向上を考える事が、今回の「働き方改革関連法案」を見ても重要視されていると考える。
「ヒト」「モノ」「カネ」の内、一番数値化しづらいのが「ヒト」の問題である。それゆえ能力開発等は即効薬とはなりづらく、能力開発、教育は後回しになりがちな企業が多いのも事実である。しかし、企業の成長、経営の改善を考えた場合、何も手を打たなければ、人件費は上がる一方である事も念頭に置いて、仕事の仕方の効率化や能力開発、労務管理等にも目を向けていただきたいと思う。

社会保険労務士・中小企業診断士 加賀 文人

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