再生支援の心得

「どんな企業でも生き残る可能性がある……ただ気づかないだけ」
これは、当社の大先輩から教わった再生支援の最も大切な言葉です。

窮境に陥っている企業でも、これまで事業を継続してこられたのには必ず理由があります。どんな企業にも顧客から選ばれている特色があるはずですが、ただ、それに気づいていないだけ……。再生支援に関わる我々コンサルタントは、ヒアリングやコミュニケーション、実行支援を行うことにより、企業に対し気づきを与えられるようにすることが大切であると考えています。

先日、この言葉を再認識する機会がありました。
とある地方のグラビア印刷の会社へ経営相談で伺った時のことです。
食品包材(パン、菓子などを包装するフィルム)の印刷を生業としている会社で、相談の内容は、売上がピーク時の3割まで落ち込み継続的な赤字が続いている、そのために新たな販路開拓したいという相談でした。
既に社長ご自身で顧客開拓を始めておられ、自社のPR資料を持参し営業をしているようですが、成果は出ていないようでした。その資料を見せていただくと、単なる会社案内で、自社の強みは品質に自信があるというようなありきたりなものでした。しかもその資料はインクジェットプリンタで出力されたもので、インクがかすれている状態でした。
この資料では、自社の特色が相手に伝わらないだろうし、かつ品質を強みとしているのに、PR資料自体の品質が悪く、逆に悪い印象を与えてしまうのではないか、と正直この時点では不安を感じました。

ところがその後、工場見学とヒアリングを進める中でいろいろと特長が出てきました。
・社長は自社にある古いグラビア印刷機(4色輪転機)の仕組みを熟知している
・以前の勤務先から機械トラブルなどで困ったときにメンテナンス等の依頼がある
・自動化された印刷機やそれを使うオペレーターでは対応ができない特殊な材質でも、自社の印刷機なら様々な調整や工夫により印刷することができる
・ドクターブレード(※)のメンテナンスには相当なこだわりを持っており、現物は本物の刃物のように鋭く磨き上げられているため、品質が良く、クレームはほとんどない
……など

 【参考】グラビア印刷機のユニット構造図 ※「ドクターブレード」とは、凹版(版胴)に接触させて、余分なインクを掻きとる役割をする機械部品です。主にグラビア印刷機やフレキソ印刷機に搭載され、印刷工程の重要な役割を果たしています。

社長を含め働いている方々は、ごく当たり前に仕事をこなしているのでしょうが、実際に話を聞いてみると、ドクターブレードの刃先の出し具合、刃先と版との接触角度、フィルムを送る際のしわを抑える微調整、巻き取りの工夫など、ノウハウやこだわりが随所にありました。そこで「難しい材質の印刷にも柔軟に対応できるノウハウとそれを実現できる設備と技術力がある」というのが御社の強みではないですか、とお話しすると、社長もご納得いただけたようでした。まさに自社の強みに気づいていなかったということです。
その後、この強みを活かした販路開拓を始めたところ、産業資材など特殊な材質への印刷の引き合いがあり、受注に繋がる可能性が出てきています。

今回の支援で、「どんな企業でも生き残る可能性がある……ただ気づかないだけ」このことを再認識できました。再生支援の心得として、この言葉を常に念頭に置き、これからも取り組んでいきたいと思います。

中小企業診断士 小竹繁夫

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