日本の労働生産性

皆さんは、日本の労働生産性を海外の国々と比較して、どのくらいの水準にあるかご存じでしょうか?「日本は先進国で、GDPはアメリカ、中国に続いて世界第3位の経済大国だから、労働生産性もそれなりに高いのでは?」と思う人もいるのではないでしょうか?

(財)日本生産性本部が公表する「労働生産性の国際比較2021」によれば、2020年の日本の1人当たり労働生産性は78,665ドルでOECD加盟38カ国中28位となっています。1人当たり労働生産性の上位を見てみると、アイルランド(1位)が207,353ドル、ルクセンブルク(2位)が158,681ドル、米国(3位)が141,370ドルとなっています。主要先進国では、フランス(8位)が116,613ドル、ドイツ(15位)が107,908ドル、英国(19位)が94,763ドル、お隣の韓国(24位)は83,373ドルで、いずれも日本より1人当たり労働生産性が高くなっています。ちなみに、日本(28位)のすぐ前にはリトアニア(26位)、ポーランド(27位)があり、すぐ後ろにはエストニア(29位)、ポルトガル(30位)が続いています。この結果を見て意外に思った人は多いのでないでしょうか?

この資料では「労働生産性=GDP/就業者数(または就業者×労働時間)」で計算されており、GDPは名目GDPではなく、各国の物価の違いを調整するため購買力平価でドル換算しています。もちろん、比較対象となる各国の労働人口、経済規模、産業構造や多国籍企業の存在など、様々な要因が影響していますので、この数字だけでは判断できないかもしれませんが、日本の労働生産性が主要先進国の中で際立って低いことは明らかなようです。

1人当たり労働生産性を比較する場合は、「付加価値労働生産性」がよく使われます。「付加価値労働生産性」は「付加価値額/労働量」で計算できます。付加価値は事業活動により得られた価値の増分であり、会社の所有者(株主)、労働者、機械設備の更新などに分配されます。そのため、1人当たりの労働生産性が低いということは、就業者1人が生み出す付加価値が低く、付加価値のうち労働者へ分配される金額も少なくなるため、企業で働く労働者の給与水準にも影響します。

ちなみに、就業者1人当たりの給与は労働生産性と労働分配率に分解できます。

1人当たり給与= 付加価値額/就業者数 × 給与総額/付加価値額

          (労働生産性)      (労働分配率)

この計算式からわかることは、1人当たり給与を上げるためには労働生産性か労働分配率を引き上げる必要があります。財務省の「法人企業統計調査年報」によれば、2018年度の労働分配率を企業規模別でみると、大企業(資本金10億円以上)では51.3%なのに対して、中規模企業(資本金1千万円以上1億円未満)が76.0%、小規模企業(資本金1千万円未満)が78.5%となっています。日本の中小企業で働く人は就業者全体の約7割を占めますが、日本の中小企業の労働分配率は大企業と比べて既に高い水準にあり、1人当たり給与を増やすには労働生産性の向上が欠かせません。

日本はこれから少子高齢化が急速に進行し、労働人口の減少が見込まれます。より少ない労働力で現在の経済水準を維持しようとすれば、1人当たりの労働生産性の向上が欠かせません。足元の日本経済を見てみると、コロナ禍で大きな痛手を受けた多くの中小企業にとってまだ経営環境が回復途上にある中で、ウクライナ紛争の影響による原油価格や資源価格の上昇、さらには急激な円安の進行による輸入品価格の高騰などが懸念され、今後の中小企業の経営を圧迫することが予想されます。

その一方で、最近では中小企業がコロナ禍を契機にITの利活用による業務の見直し・効率化に積極的に取り組んでいます。例えば、ネットやSNSを活用した新規顧客開拓、リモートワーク、キャッシュレス決済など、中小企業でも労働生産性の向上に繋がる取り組みが増えています。こうした個々の中小企業の地道な取り組みを通じて、日本全体の労働生産性が向上し、ひいては日本人の給与水準の改善にも繋がることを願ってやみません。

中小企業診断士 秋田 秀美

関連記事

コメントは利用できません。