新しい資本主義と中小企業の事業再生

昨今、日本経済が停滞している。賃金が伸びていないなどのニュースを聞くことも多くなりました。実際どうなのでしょうか?政府の諮問会議である新しい資本主義実現会議の資料で考察してみたいと思います。下は一人あたり実質賃金の伸び率を国際比較したものです。日本はバブル期からほとんど伸びていないことがわかります。

一方下は一人当たりGDP成長率です。低迷していると言われることの多い日本経済ですが、高齢化の影響の少ない1人当たりGDP成長率では日本はG7の主要国と比較して低成長ではないことがわかります。

なぜ、1人当たりGDP成長率で差がないのに賃金の伸びで差が出てしまうのでしょうか?日本は労働参加率(上の図の青い部分)を上げることで経済成長をしているけれども、労働者一人あたりの労働生産性(上の図の赤い部分)の伸びが低いために賃金に反映されないのです。

実質賃金=(労働生産性×労働分配率)/物価水準

で計算できます。

労働生産性とは
会社の場合は
労働生産性=付加価値(経常利益+人件費+賃料+金利負担+租税公課)/従業員数

国全体の場合は
労働生産性=GDP(付加価値の総計)/労働者数

従業員を雇用することで生み出した付加価値を会社と従業員でわけあい、従業員の取り分が賃金になります。従業員の取り分の割合が労働分配率です。1人当たりの従業員で生み出す付加価値=労働生産性が低いと、それだけ賃金は低くなります。国全体で言えば、労働参加率つまり女性や高齢者など労働者が数的に増えることで一人あたりGDP成長率は他の主要国と遜色はないレベルにあるのですが、労働者一人あたりの付加価値=労働生産性を増やせていないので賃金が伸び悩んでしまっているのです。

ちなみに賃金には労働分配率も関係するので、そちらの国際比較も出します。日本は他の主要国と比較して低い水準で推移していたことがわかります。

新しい資本主義実現会議では生産性を上げるために人的投資や研究開発投資の促進、非正規雇用と女性の有効活用・賃金格差の解消、人材・雇用の流動化など議論がされていますが、それらと並んで日本の生産性が上がらない原因の一つとされるのが中小企業問題です。
下は中小企業と大企業の生産性格差の国際比較ですが、日本はOECD諸国のなかで労働生産性の格差の大きい国であることがわかります。

中小企業と大企業の賃金の格差についてもアメリカと並んで格差の大きい国であることがわかります。つまり、生産性の低い日本で、とくに生産性が低いのが中小企業で、そのことが反映して中小企業の賃金水準も低くなっているということです。

中小企業の生産性や賃金が低い原因はなんでしょうか?

下は中小企業庁の資料からの抜粋です。日本が中小企業融資向け残高、とくに保証債務残高が非常に大きいことがわかります。

信用保証制度はコロナ禍など経済危機などにより一時的に市場機能が麻痺する場合にも、その影響を緩和し事業継続を可能とする等のメリットもあります。一方、容易な資金調達が、事業者の経営努力、金融機関における事業を評価した融資や支援姿勢等をかえって阻害する恐れがあります。また、市場原理を通した企業再編が遅れ、生産性の低い中小企業が改善されないままであっても存続するなどのデメリットが指摘されることがあります。
 今後、コロナ禍において経営が悪化しながらも政府の支援によって生き残った中小企業の再生が、日本の経済再生と生産性向上、賃金上昇の鍵になることは間違いありません。

このようななか、今年5月に政府から示された新しい資本主義実行計画のなかでも事業再生に関する施策などが取り上げられています。また、NBR合同会社も日本経済復活のために、これからも中小企業の再生に貢献していく所存です。

中小企業診断士 竹上将人

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