外国人労働者が日本を見限る日

先日、とある製造業の社長がこんなことを仰っていました。

「森さん、最近は外国人労働者が日本を選ばなくなっているんだよ。」

この会社では、従業員数約45名のうち、ベトナム国籍の正社員5名、技能実習生9名が在籍しています。

厚生労働省が公表した「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和3年10月現在)」によると、日本国内の事業所で働く外国人労働者数は 1,727千人、前年比 2,893 人と増加しており、平成19年に届出が義務化されて以降、最高を更新しました。国籍別では、ベトナムが最も多く453千 人 (全体の26.2%)。次いで中国 397千人 (同23.0%)、フィリピン 191千人 (同11.1%)の順となっています。

 外国人労働者が日本を選ばなくなってきている原因の一つは「円安」です。為替レートを、国籍別で最も多いベトナムのドン(VND)に換算してみましょう。2022年1月には1円=200VNDだった為替レートは、7月15日には、1円=169VND、約15%の減少となっています。つまり、日本でこれまでと同じように働いていたとしても、その貨幣価値は、以前と比べ85%に目減りしていることになります。母国の家族へ仕送りをすることもある彼らにとっては、切実な問題でしょう。

しかし、外貨建てで見た日本の賃金の目減りだけが理由とは言えません。近年では、日本の労働者の低賃金も問題視されています。最低賃金は毎年見直しが行われ、年に2~3%、つまり数十円程が引き上げられていますが、物価上昇分を差し引いた実質賃金は低下傾向にあります。外国人労働者が「日本で働いても昔ほどは稼げない、なら他の国へ。」と、日本を見限るようになっても不思議ではありません。

円安などの外部環境対策は、いち企業の自助努力でできることに限界があります。しかし、自社の職場環境整備はできるのではないでしょうか。例えば前述した製造業では、毎年決算後に行う「経営方針発表会」には外国人労働者を含め全員が参加し、ベトナム語の同時通訳を入れて、会社の経営方針や課題を共有しています。また、作業マニュアルも日本語版とベトナム語版を用意し、目で分かるように動画を作成しています。こうした取り組みで、日本人労働者も外国人労働者も、ともにいきいきと働ける労働環境づくりを実践しています。

もし、外国人労働者を「賃金の低廉な労働力」などと考えている経営者がいたとしたら大きな間違いであり、日本の企業は、「働きたくなる会社づくり」のため、賃金の引上げと労働環境の整備、それに見合う生産性の向上に本気で取り組むべき時が来たのだと思います。まずは、現在日本および自社で働いている外国人労働者に対し、感謝の気持ちをもって接することから始めてみてはいかがでしょうか。

中小企業診断士  森 正樹

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