社長の決断はタイミングが大事

ある製造業の社長から、「会社を売りたい」と相談を受けたときのお話です。

かつては、会社に10人以上の従業員がいて、自社工場で板金加工した製品を取引先に納めていました。ところが、社長も年を取り、今では80代に。会社に後継者はいなかったため、将来に不安を感じた従業員が続々と辞めてしまいました。

社長の尽力で取引先をキープしているものの、工場で板金加工をできる人はいません。そのため、板金加工は他社に外注しているとのことでした。

製造の機能は失っていたので、この会社の価値は取引先との関係を維持していたことにあります。ところが、営業は社長がしており、他に営業をできる人はいません。従って、社長がいなくなったら、取引先を維持できるのか分からない状況でした。

会社を売って引退したいのであれば、社長がいなくても会社を運営できる仕組みを作り上げることが必要です。

従業員が10人以上いるときは、工場長も営業部長もいました。組織的に生産や営業ができているときなら、いろいろな提案ができたと思います。買い手企業とシナジー(相乗効果)が期待できれば、売り手企業にとっても有利な条件でWIN-WINの関係構築も可能です。従業員が辞める必要はなくなり、事業そのものを維持できた可能性は極めて高いと思います。

後継者がいない会社で従業員が去ってしまうと、残っているのは社長だけ。閑散とした建物の中、広々とした事務所に一人だけ取り残されてしまいます。

中小企業が事業継続するためには、①親族への承継、②従業員への承継、③第三者への承継(M&A)のどれかを段取りしておくことが必要です。ご子息・ご息女がお見えなら、現場・営業・経営を早めに経験させておきたいものです。代表取締役を譲るタイミングを決めて、スケジュールを逆算して、事前に準備する必要があります。そして、奥様との旅行など、社長個人のハッピーリタイアを考えることができますと素敵なことだと思います。

こちらの提案前に、この社長は生涯現役を貫くことを決めましたので、会社を売るお話はなくなってしまいました。会社を売ることは難しいと自ら判断したのです。根本解決ではないのですが、会社は株主のものですので、オーナー社長の決断は最大限尊重されるべきです。

ただ、経営資源が散逸してしまった会社の「姿」をみてしまうと、ちょっぴり残念にも感じました。もっと早くご相談いただければ、経営者一族・従業員・取引先のみんながもっと幸せとなる「姿」を描けたと思います。

社長にとって意思決定はすごく大事です。タイミングを逸することなく決断して、実行することが、いかに大事かを感じた出来事でした。

中小企業診断士 西田学

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