1年ほど前から、とある公的機関のご依頼で、「カフェバーK」という飲食店のご支援に携わっています。2年前に開業してから赤字経営が続いており経営改善の支援をしてほしいということでした。事前情報によると、カフェバーKは約70席、ランチタイムのお客様は主に主婦層、夜のお客様は主にカップルや周辺にお住いの方。オーナーのK氏はサラリーマンで、副業としてお店を経営されているとのことでした。
筆者は、新規支援先のご依頼をいただいた時には、できる限り事前に現地へ出かけるように心がけています。飲食店であれば、一般消費者として飲食し、消費者目線でお店を見るようにしています。この時も事前にランチを利用しました。メインメニューは自家製ハンバーグにサラダ、ライスがのった「ランチプレート900円」。プラス300円でドリンク、プラス500円でドリンクとデザートが付きます。
料理自体は美味しかったのですが、気になったのは「価格設定と提供方法」です。店内を見渡すと、事前情報の通り、主なお客様は主婦層です。皆さん、ランチを食べた後もおしゃべりに夢中です。でも、長時間滞在していながら、ドリンクやデザートを注文している人が少ないように感じました。ならばドリンクやデザートをプラスするのではなく、最初からセットとして、1,500円前後で提供したほうが良いのではないかと考えました。
そして初回訪問当日、オーナーのK氏に、そのことをお伝えしました。K氏は非常に熱心な方で、筆者の提案をすぐに実行されました。翌月、2度目の訪問時に状況をお聞きしたところ、以下のお言葉をいただきました。
「森さんの提案通りに実行したら、ランチタイムの客数も客単価も増えました。」
ランチタイムの改善だけでは赤字解消には至りません。ただ、このことで筆者を信頼してくださったのか、引き続きご支援をすることになりました。
カフェバーKの強みは「70席の収容力」「ショーができるステージがある」ことです。筆者はここに着目し、ステージを必要とする団体客、例えば企業の宴会・パーティ需要、習い事教室の発表会、同窓会などの需要を取り込むための販路開拓を提案しました。また、毎週金曜日は、ステージを活用したショーを開催し、集客を図りました。
販路開拓は一定の成果を上げました。しかし、業績は抜本的に改善したとはいえず、赤字経営が続く中、K氏からまたご相談がありました。
「これ以上、やれることはないでしょうか。」
実はご依頼をいただいた時から、お伝えするべきか迷っていたことがありました。それは、「オーナーであるK氏がサラリーマンで、店舗運営に注力しきれていないこと」が最大の窮境要因であると考えていたことです。
K氏がお店に入る時間が限られているため、余分な人件費がかかります。ショーの中止、営業時間、定休日を突然変更することもありました。また、販路開拓によって団体のお客様が来店されたのに、K氏がお店にいないこともありました。これでは、せっかく来店されたお客様も、また次も利用しようとは思わないでしょう。
一方で、K氏にサラリーマンとしての固定収入があったため、赤字でも店舗を継続し、生活ができていたことも事実です。副業そのものを否定し、退職を勧奨するわけではありません。ただ、オーナーであるK氏自身がお店に立ち、運営に注力すれば、経費削減はもとより、営業面でもプラスになることは確信しておりました。筆者はそのことをK氏にお話しし、ご判断に委ねることにいたしました。
その数ヶ月後に、K氏は勤務先企業を退職されました。そして現在では、毎日お店に立って、時には自身がステージに上がり、ショーを披露されておられます。筆者は責任を感じ、現況を伺うためにメールを送ったところ、すぐに返信をいただきました。
「会社を辞めて大正解だと思っています!再来店のお客様が増えてきて、方向性は見えてきています。経費もかなり減らしましたし、トータル収支としては黒字になっています。」(原文を一部省略)
「儲」かる、という言葉の語源は、「人・諸」であり、「諸事について準備を怠らない人に財が集まる」ことだといわれています。でも、筆者は「信・者」と書いて「儲かる」と読む、という解釈の方が、小規模事業の運営にはしっくりくるように思っております。小規模事業者のファン(=信者)づくりはオーナーの魅力が大事。事実、カフェバーKは、オーナーであるK氏がお店に注力することで、再来店されるファンをつくり、儲かるお店になりつつあるわけですから。
K氏の返信には、追伸がありました。
「また森さんに相談したいことがあるのですが、今度はいつ来てくれますか?」
筆者もまた、「信者」を得ることができたのかもしれません。
中小企業診断士 森 正樹