「技能実習」から「育成就労」へ

新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行されて1年余り。街でも外国人観光客と思しき方々を多く見かけるようになりました。これに伴うように外国人の人材の雇用も増加しており、国内の外国人労働者数は204万人と過去最高を更新しました。そのうちの20%である41万人が技能実習生です。(厚生労働省「外国人雇用状況(2023年10月末時点)」より)

この「技能実習生制度」は、日本企業にすっかり定着した感がありますが、廃止され、新制度に移行することが決定しています。

外国人人材の受け入れに関する新制度「育成就労制度」を設けることを柱とする改正出入国管理法などが、2024年6月の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。1993年から開始され、30年あまり続いた「技能実習制度」は廃止となり、2027年にも新制度「育成就労制度」が始まる見通しです。これから外国人人材の働き方はどう変わり、日本企業はどう備えるべきでしょうか。

「技能実習制度」の目的はあくまで途上国への技能移転が目的で、労働力として雇用するための制度ではないというのが建前でした。また、技術移転を通じた国際貢献が目的だったため、技能実習修了後、外国人実習生は原則帰国することになっていました。さらに、受け入れ先の企業で技能を習得することを条件に在留が認められるため、転職に相当する受け入れ企業の変更はできません。職場を選択する自由がないため、劣悪な環境下でも働かざるを得ない技能実習生に対する人道的な配慮にも欠ける部分がありました。

一方、「育成就労制度」は、育成就労産業分野において「特定技能」1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保する目的があります。したがって、育成就労修了後は、特定技能1号ビザに切り替えることを原則としています。今まで「技能実習制度」と「特定技能」で対象となる業種・分野が一致していませんでしたが、育成就労の業種・分野は原則特定技能1号と同じになる予定です。さらに、一定の要件を満たせば、転職・転籍も可能となります。

また、「特定技能制度」には、1号と2号があります。特定技能1号の在留資格で働くことができるのは、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業の12分野です。今回の改正では、これに新たに鉄道、林業、木材産業、自動車運送業の4分野が加わる予定です。さらに2号資格に移行すれば、在留年数の上限がなくなり、家族を呼ぶことも可能となるため、育成した労働者には末永く働いてもらうことができるわけです。外国人人材の活用に本気で取り組む企業にとっては、人材育成のしがいがあるのではないでしょうか。

現時点で分かっている情報をもとに、「技能実習生制度」と「育成就労制度」の比較、「育成就労制度」のメリット・デメリット(課題)を、筆者目線でまとめてみました。

<技能実習生制度と育成就労制度の比較(一部抜粋)>

項目技能実習制度育成就労制度
制度目的技術移転による国際貢献特定技能1号につなげる人材育成と各産業分野の人材確保
転職・転籍原則不可要件を満たせば可能 (技能実習生制度より大幅に緩和)
対象業種・分野90業種165作業12分野+4分野 (特定技能1号と同じになる予定)
期間原則3年・最大5年通算8年(育成就労3年+特定技能1号5年) 特定技能2号に移行すれば在留年数上限なし
入国時日本語能力なし(介護のみN4)N5レベルが必要

<育成就労制度のメリット・デメリット(課題)>

メリットデメリット(課題)
長期的な雇用が可能になる一定程度の日本語力のある人材を雇用できる  転籍・転職してしまう可能性がある転籍・転職を防ぐため給与水準が高くなる可能性がある受け入れできる分野の範囲が狭くなる

「技能実習」から「育成就労」へ。日本企業にとって外国人人材を受け入れ、労働市場を支えてもらうことは避けて通れないテーマであり、今回の法改正は、人手不足に悩む企業に大きな影響を及ぼしそうです。法改正で制度上「長く働ける」ようになったとしても、外国人人材本人に、日本で、あるいはこの企業で「長く働きたい」と思ってもらわなければなりません。そもそも、技能実習生を「期間限定の賃金が低廉な労働力」としてしか扱ってこなかった企業には、もうお願いしても外国人人材は集まってこないかもしれません。

今回の法改正をチャンスとするためには、日本で働く外国人人材に対する感謝と敬意を忘れず、会社の将来を担う人材として大切に育成し、長く働いてもらう努力を惜しまないことが必要なのではないでしょうか。

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