『窮境原因』-。一般の方々にはあまり馴染みのない言葉ではあるが、このサイトをご覧になっている方々は耳にしたことがあるのではないだろうか。窮境原因とは、事業が窮地に陥った原因のことを指して言う。具体的には、売上不振、取引先の倒産、放漫経営などがあげられる。ちなみに、平成23年度中小企業白書によると、22年11月に民事再生法の適用を申請した企業3,627社を対象に実施した「中小企業の企業再生調査」アンケートの結果、窮境原因として一番多かった回答は、「本業の経営不振」であり、実に回答者の半数に達する54.5%がそう答えている。以下、「金融機関の貸し渋り、貸しはがし」が34.7%、「過去の経営判断の誤り」が32.1%となっている。
しかし、専門家として事業再生の現場に携わっていると、企業、経営者が考えている「窮境原因」が実は窮地に陥った本当の原因ではなく、「過去の行動」が積もり積もった結果、いうなれば起こるべくして起こった結果なのでは、と感じることが多い。「昔はよかった。」「昔は儲かった。」という言葉を耳にするたび、手元の資料と見比べてそれをより痛感する。その「良かった」頃がいつまでも続くと信じ続け、今に至っているのではないのかと。
だが、同じようなことを感じる場面は、何も窮地に陥っている経営者との面談時に限ったことではない。窮境という概念とは真逆に位置するといってもいい、創業支援においてもそう感じる場面に多々遭遇する。「自信があるんです。」「みんなが褒めてくれて、これなら商売になるって言ってくれて。」「昔からやりたかったことなんです。」というような根拠のない自信がその動機となっている創業者は想像以上に多い。そういった創業者の相談に応じると、やはり手元の資料を見ながら同じことを感じるのである。そういった自信がいつまでも続くと思っているのだろうなと。ただ、不幸中の幸いというべきか、創業に限ってはすぐにその答えが出てしまう。創業後しばらくしたら再び相談に訪れるのである。「思ったように売上が上がらないんですけど…。」という相談内容と共に。
再生と創業。企業におけるステージは違っても、いつも同じ疑問が頭をよぎる。「本当の『窮境原因』はしっかりとした経営計画を立案していないことではないだろうか?」と。いつまでも同じ状況が続くわけがなく、経営を継続させるには、市場・業界情報を収集し、自社の状況を鑑みて、的確に判断し、行動に移すことが必要不可欠である。そういった行動を可能にする大切な道標の役割を果たしてくれるのが経営計画であり、こうした観点を欠いた経営は、遅かれ早かれ窮地に立たされてしまうのである。
中小企業診断士 東野礼