長男が夏休みを利用して合宿型の自動車学校に通学し、運転免許を取得した。早速、長男の運転する車に乗って家族でドライブすることになった。誰も座りたがらない助手席には私が座り、1時間程度のドライブに出発した。
大通り中心のドライブコースということもあり、不安なく同乗していたが、後部座席に座っている弟たちは、運転している長男に対して笑顔ながらも「怖い」「危ない」とうるさかった。弟たちがうるさいなか、真剣な顔をして運転している長男の横顔を見ていて、ふと自分が免許をとった時のことを思い出した。
私が免許を取得して初めて家族を乗せてドライブした時、後部座席に座っている母親は「スピード出しすぎ」、「もっと早くブレーキを踏め」「前の車に近づき過ぎ」と、運転に集中できないほどうるさく、不安な気持ちにさせた。しかし、助手席の父親は黙って座っていた。父親から言われたことは「次の信号を右」など、方向指示だけだった。運転が終わった後、父親が母親に対して、「まあ、大丈夫じゃないか」と話し、それ以降は一人で車に乗ることができるようになった。その後、父親の大事な車を借りて一人で運転していたが、家族のルールにより、壁にこすって車に傷をつけたとき、警察に違反で捕まったときなどは、その都度、父親の再試験を受けていた。また、私が父親の車を利用する機会が増えるとともに、きれいだった車も傷だらけになっていったが、父親から厳しく叱られたことはない。再試験の際に父親から言われたことは、「安全運転していても事故にあうこともある。まずは自分が安全運転すること。」だった。
30年余りの運転歴を振り返ってみると、父親の言葉のおかげもあり、今のところ大きな事故を起こすこともなく過ごすことができた。しかし、右折するときに自分では安全と思って曲がろうとしたら、信号を無視して車が直進してきたり、横断歩道をわたる人がいたりして、怖い思いをしたことがある。こうした怖い経験を通じて安全運転に必要な予測力が身についてきて、安全運転の質も上がってきたと感じる。
事業承継支援では、社長から後継者である子息のことをいろいろと心配する声を聞きます。子息のため経営者養成セミナー等に積極的に申し込み、勉強させていると伺うことも多いです。しかし、学んだことも実行しないとわからないことが沢山あります。学ぶ機会とともに、子息がその知識を実践できる場を与え、経験を通じた育成も必要です。
子供の運転する車にいつまでも同乗して口を出すことはできません。経営者となる子息に対して心配することは多々あると思いますが、まずは社内プロジェクトの責任者として実践の場を与え、口出ししたいことをグッと我慢して黙って見守ってみてはどうでしょうか。
中小企業診断士 梅村 薫