個人的な話で恐縮だが、私は旅行が趣味でコロナ禍前は毎年海外に出かけるのが楽しみだった。しかし、2020年に新型コロナウイルス感染症が世界中で蔓延して以降は、海外どころか国内も旅行ができる状況ではなかった。それから数年が経ち、やっとコロナ禍から抜け出したと思ったら、今度は以前のように気軽に海外に行けるような状況ではなくなってしまった。これは、デフレが長く続いた日本に対し、欧米各国では急激なインフレが進み、それによる金融政策の違いから為替レートが大幅な円安になったことが影響している。最近は、航空券代、ホテル代、食費など海外へ渡航するための費用は以前と比べて大幅に値上がりし、欧州やアメリカでは現地の生活コストは日本人にとって驚くほど高く感じられるようになった。
世界各国の通貨の購買力を測る指標として、ビッグマック指数(THE BIG MAC index)がよく知られている。ビッグマック指数は、イギリスの経済誌「The Economist」が開発した指標で、購買力平価の考え方を基にして世界各国のマクドナルドで販売されているビッグマックの価格を比較することで世界各国の通貨がどの程度過大・過小評価されているのかを測ることができる。
2024年7月のビッグマック指数を基に世界各国で売られているビッグマックを円換算(USD1.00=150.47円で換算)した販売価格は、最も高いのがスイスで1,214円 (USD8.07)、ユーロ圏は912円(USD6.06)、アメリカは856円(USD5.69)である。アジア諸国では、シンガポールが748円(USD4.97)、韓国が600円 (USD3.99)、タイが570円 (USD3.79)、中国が531円 (USD3.53)、そして日本が480円 (USD3.19)である。この時の購買力平価はUSD1.00=84.36円なので、日本円が大幅に過小評価されていることになる。最近は世界中から多くの外国人観光客が日本を訪れ、インバウンド需要が盛り上がっている。最近もある外国人から「日本は物価が安いから、日本で買い物をするほうがお得だ」という感想を聞かされた。ビッグマック指数からも伺えるように、外国人観光客にとって今の日本は物価が安くて旅行しやすい国ということになるのだろう。
ちなみに、現在よりもずっと円が強かった2010年7月のビッグマック指数と比べてみるとその違いは一目瞭然である。2010年のビックマック指数を基に世界各国で販売されたビッグマックを円換算(USD1.00=87.19円で換算)した販売価格は、スイスが540円 (USD6.19)、ユーロ圏が378円(USD4.33)、アメリカが308円(USD3.53)となっている。アジア諸国では、シンガポールが269円(USD3.08)、韓国が246円 (USD2.82)、タイが189円 (USD2.17)、中国が170円 (USD1.95)、そして日本が320円 (USD3.67)である。
当時は日本人が海外に行って物価が高いと驚くことは今より少なかったであろう。
ビッグマック指数を見て思うことは、日本人の購買力は海外各国と比べて相対的に貧しくなっているということだ。かつての「豊かな国ニッポン」はどこへ行ってしまったのか?と寂しい気持ちになるが、これには変化の兆しもありそうだ。今、日本は長く続いたデフレから脱却しようとしており、物価が上がり、賃金が上がり、金利が上がる時代を迎えようとしている。日本経済が活力を取り戻し、日本円がもっと評価される日が来れば、かつてのように気軽に海外旅行に行ける日もまた来るのかもしれないし、そうあることを願いたい。
中小企業診断士 秋田 秀美