先日ニュース記事で、入社後数日で退職するケースが増加、若者の離職率が過去15年で最高、という内容に目が止まり、全体の傾向も気になり調べてみた。

新卒者の3年以内離職率について、厚生労働省の直近の調査結果が掲載されていたが、その調査によれば、令和3年3月新卒者の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度と比較して1.4ポイント上昇)、新規大学卒就職者が34.9%(同2.6ポイント上昇)であった。
過去の推移はというと、大卒者で見れば、平成7年以降では、平成21年が28.8%と30%を下回った以外は30%~36%台で推移し、平成11年から平成18年は34%台~36%台であった。確かに記事の見出しにあった過去15年では最高であったが、平成7年以降の約30年間の推移の中では前年度の離職率が特に高いということではなかった。
一方で、平成30年以降は離職率が増加に転じており、新卒者の中には、ステップアップのための転職を見越した離職者も一定数想定されるものの、大手を中心とした企業側も以前に比べれば処遇面で各種制度を充実させているはずであり、また様々な就職サイトやSNS、オンラインでの面談など、企業、求職者双方に幅広く、効率的に情報の入手、提供がしやすくなっていることを考えると、個人的には離職率が減少して然るべきではないかと感じた。
人材確保が難しい状況下で、特に大手企業などでは、一定の離職者を見込んで幅広く人材を確保していることなども離職率増加の一因と考えられるが、求職者側が会社に対し期待する労働環境や処遇面など、当初の説明や告知内容と実際とはギャップがあったというようなミスマッチを原因とする短期間での離職は、双方にとってデメリットが大きいはずである。求人にあたり、求職者の誤解を生むような情報提供がされているのであれば、まずは採用を決定する企業側がその抑止に努めるべきではないかと考える。
直近では、大手を中心に初任給を増やしたり、通年採用を導入する企業もあり、大企業に求職者が集まりやすい環境にある。人手、人材不足に悩んでいる中小零細企業にとっては、求人に関して厳しい状況が当面は続くことは言うまでもない。
また一方で、求職者、就業者も含めて仕事や働き方に対する考え方、価値観の変化も見られる。終身雇用や年功序列を重視する考え方も薄れつつあり、若年層に限らず副業などで個々人の能力、スキルを充実させたいといった個人の仕事や働き方に対するニーズも多様化している記事なども目にする。詳細の記載は割愛するが、この4月に掲載された経済産業省のダイバーシティレポートの中でも若年層の会社への帰属意識や処遇面、仕事に対する価値観などが多様化、多極化していることなどが示されている。
人材確保に悩む事業者にとって、仕事に対する価値観、働き方の多様化をプラスと捉え、自社独自の強みや事業特性、仕事の魅力、採用後の人材育成、人材を今後どのように事業展開に活かしていくかなど、まずはこれらを「働く側にとっての目線」で深掘りすべきと思う。そのうえで必要な社内制度の変更や、情報提供については求人情報や求職サイト、ホームページ、SNS等を活用し、内容を充実させていくことが、企業と求職者間でのミスマッチを防ぐだけでなく、事業者としても求める人材や自社事業に適した人材の確保につなげるうえで有効ではないかと思われる。
今後、日本の生産年齢人口(15~64歳)は、2050年には現在の約3分の2に減少すると予想されており、限られた労働力の採用、活用をさらに効率的に最適化していく必要があるように思う。
中小企業診断士 佐藤淳史