企業再生のコンサルティングや経営改善計画策定のご依頼を受けた会社の決算書を見させていただくと、かなりの確率で存在するのが経営者個人からの借入金です。現在経営状況が悪化している会社でも、過去に利益が出ていたときには役員報酬も多く、経営者が一定の資産を保有しているケースも多々あります。銀行からこれ以上の借入が困難な状況となった場合にこれまで蓄えていた経営者個人の資金を会社に入れることで、資金繰りの悪化をとりあえず回避しているものと思われます。
このような経営者からの借入が多い会社に対し、我々が支援に入ることで事業再生にこぎつけるケースもあります。PLが黒字化し、会社も落ち着きを取り戻すと次は事業承継が課題となることが多いものですが、そのときに経営者からの借入が問題になります。経営者が会社に貸し出しを行っている状態で相続が発生した場合は、その金額がそのまま相続財産と認識され、相続税が発生することもあります。しかしその貸付金をすぐに現金化する(会社から返済を受ける)のが困難な場合は、納税資金の確保に苦慮する事態もあり得ます。
この場合にとりあえず考えられる解決策としては、経営者が債権放棄する方法です。会社側に債務免除益が発生しますが、繰越欠損金の範囲内であれば会社側に法人税が発生しないですみます。しかしながら、事業再生途上の企業にとっては、事業から生じるキャッシュフローを借入返済や新規の設備投資に振り向けられるよう、計画期間中繰越欠損金を有効に活用したタックスプランニングを組む必要があります。従って、経営者による債権放棄も余り有効な策とは言えないケースが少なくありません。
結局、経営が悪化したときに、その場しのぎとして経営者の資金を投入したことが、後々事業再生や事業承継を行ううえでのリスクになってしまうわけです。また、経営者個人の資金を投入しても会社が立ち直らなければいつか限界にきます。経営を抜本的に改善しない限りは本質的な解決策にならないわけです。まずは目先の資金繰りのことを考えるのは経営者として仕方がない部分もあります。しかし、経営の改革を後回しにせず取り組んでいくことが最も重要であることを忘れてはならないだろうと思います。
中小企業診断士・行政書士 竹上将人