事務所開設顛末記~後編~

事務所の契約も無事完了し、次の任務は事務所としての機能を果たすための備品の購入である。机やいすをネットで注文し、到着予定日に合わせて本社からの引っ越しを行うこととなった。引っ越しには総勢5名のメンバーが集い、机や書類棚の組み立てを行った。そこで事件は起こったのである。

机は天板に支柱をはめ込み、ボルトにより固定するといった形式で組み立てるものであった。最近の机はデザイン開発が進んでおり、誰が組み立てても完成形になるよう、上下左右を間違えたらはめ込むことができないようになっている。左右でボルトの穴の大きさが違ったり、はめ込みのための窪みが台形になっており上下を逆にするとはまらないようになっていたりと、ユーザー視点に立ったものづくりが展開されていた。これもサラリーマン時代に備品として何気ない日常において使っていたものを、組み立てるといった経験を行って初めて理解できることである。

ところが、そういったものづくり英知や、穴の大きさ、窪みの形状といった物理的な制約を超越して机を組み立てようとする猛者が現れたのである。私も他のメンバーも組立に没頭していた際「あれ?おかしいな?」といった独り言がだんだんと大きくなってきたことに気づき、声の方向を振り返った。するとその声の主は支柱の上下左右を逆に取り付けようと必死になっていたのである。何事も経験とはいえ、物事には摂理というものがある。それを無視して、あるいは理解せず物事を進めてしまっては取り返しのつかない事態に陥ってしまうのである。

『過ちては則ち改めるに憚ること勿れ』と孔子は述べている。「うまくいかない、おかしいな?」と思った時は一度冷静になって落ち着いて考えること、もしそれが間違っていたら改めること。この理(ことわり)はすべてに通じるのである。間違えたと思っていてもなかなか改めることができないからこそ、この言葉が格言となっているのではないだろうか。

なお、その後、机は無事に組み立てることができました。

中小企業診断士 東野礼

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