事業再生の過程では、資金繰りの改善を行うために固定費を削減、特に人件費を削減することがよく行われます。
人件費を削減する手段としては、臨時従業員の解雇、役員報酬の削減及び正社員の基本給のカットや解雇などがあります。
会社が解雇を考えるときは、経営の状況が切迫している訳ですから、すぐにでも実施したいところです。しかしながら、その後元の従業員から不当解雇として訴えられたり、解雇予告手当を請求されることが少なくなく、結果として、事業再生で一番忙しい時期に経営者が事業再生以外で時間を奪われることになってしまいます。
事業の継続を担保するために、売上や営業利益の増加を目的とした事業の再構築、新しい経営計画の策定、借入金返済の猶予を目的とした銀行との打ち合わせ等、経営者が行うことは膨大で、心身ともに相当なプレッシャーを受けながら、業務を進めていかなければなりません。
このような中で、従業員の解雇を少しでも円滑に進めるために、経営者は何に配慮すべきか、あるいはどのような準備をしておくかが問題になりますが、以下の2点を考慮されたらいかがでしょうか?
1つめは、解雇等の順番です。厳しい経営状態の中でも、従業員の賃金の削減等で乗り切れる可能性があるなら、まずその方向性を模索するべきです。しかしながらそれが叶わず、全従業員の雇用の確保が難しい場合、解雇はやむを得ません。
但し、パートさんの雇用を確保しているのに正社員の解雇を行なったり、従業員の解雇を行っているのに、経営者の役員報酬がそのままでは、従業員の不満が発生し、上記の様なトラブルが発生しやすくなるのは否定できません。
解雇時のトラブルを最小にするためには、以下の順序で進めることをお勧めします。
- 役員報酬の削減
- 臨時従業員の解雇
- 正社員の解雇
2つめは、法令の順守と事前の準備です。
意外に思われるかも知れませんが、労働基準法では解雇において、「解雇予告手当」を支給する事しか規定していません。労働基準法20条には、解雇する場合には30日前に労働者に通告するか、それが不可能な場合は、その分解雇予告手当を支給する、とあります。
少なくとも、解雇予告手当の規定を順守することで、労働基準監督署からの指導を避ける事が出来ます。会社が厳しい状況だからこそ、労働基準監督署からの追究等の負担を回避することが肝要です。
「不当解雇の訴え」については、解雇予告手当を支払ったとしても、民事上の事件であるため回避することはできません。
これについては、事前に就業規則の服務規律や懲戒規定を見直しておくことが、リスクを極小化することに繋がりますので、参考にして下さい。
社会保険労務士・中小企業診断士 加賀文人