「伴走支援」がこれからの中小企業支援において必要不可欠な要素であるといわれるようになり久しい。日本の中小企業に関する行政を司る中小企業庁、および独立行政法人中小企業基盤整備機構は「経営力再構築 伴走支援ガイドライン」なるものを発表しており、その中で、『経営者が、本当の経営課題は何かということに向き合い、気づき、自分たちが進むべき方向に腹落ちしたとき、潜在的な力が引き出されること、経営者をそのように導くためにはそれに適した効果的な支援手法を講じるべき』としており、その支援手法として伴走型支援が大切であると述べている。
一方、支援の現場においては、業績もよく、今から企業規模も売上高も大きく飛躍するために成長しようとする企業をお手伝いすることもあれば、借入の返済もままならず、明日からどのようにして金策を講じるか、といった企業をお手伝いすることもある。その中で、それぞれの状況によって相手にどのように寄り添って考えるか、支援先の現状はもちろん、経営者の考え方や企業文化、商習慣などにより様々に異なってくるので、寄り添うといったことは一筋縄ではいかないと感じることが多い。
先日も支援機関で行われている窓口相談に御年88歳の相談者がいらしてくださり、創業者である自分がつくった会社の現状、そして将来の憂いを切々と語ってくださった。自分は一線を退き、娘婿に経営を譲ったものの、譲ってからは業績が右肩下がりであり、代表権を取り上げたものの自分の意見に耳を貸そうとしない。廃業しようかと思っていたところに孫が事業を継ぎたいというものだから何とか今のうちに経営を立て直したい。こういった無料相談だけでなく、先生(私)と顧問契約を結んで何とかしてほしい。ということだった。
顧問契約の申し出は本当にありがたくうれしかったが、同時に、本当の意味でこの相談者様の情熱、思いに「寄り添って」考えることができるだろうか。少し不安になった。失礼ながら、残り少ない人生、悠々自適に暮らすこともできるであろうにも関わらず、大切な時間を縫って自分で車を運転して窓口相談にいらしてくださった。まさに人生をかけた相談である。そこに相談者の半分しか生きていない私が専門家とはいえ簡単に「伴走支援」と口にできるのかどうか、言い換えればそういった言葉で表現してしまってよいのか。と痛感したのである。
そこで私は、相談者だけではなく、実質の経営者である娘婿やお孫さんともお話をさせていただき、相談者はもとより関係者全員とことんまで付き合っていこうと決心した。未熟ではあるものの、これが私の伴走支援であり、こういうやりかたしかできないのだ。私の中で「伴走支援=慎始敬終(しんしけいしゅう)」であると定義し、自分なりの伴走支援を形にしていくことを目標としていきたい。