令和2年以降、世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症は日本経済に甚大な影響をもたらし、既に2年以上が過ぎた現在もその影響は続いています。この間、多くの中小事業者は業績が悪化する中において、資金繰りを回すために、コロナ緊急融資を頼り事業を継続してきました。依然として業績が回復していない状況下で、増大した債務の返済に苦しむ中小企業が多く存在しています。
このような状況から、国は施策として「中小企業活性化パッケージ(①コロナ資金繰り支援の継続と②収益力改善・事業再生・再チャレンジの促進)」を打ち出しました。①では、中小企業の事業継続を強力に支援するとともに、②では、増大する債務に苦しむ中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを促す総合的な支援策を展開するとされています。実際には11種類の関連施策が出ています。
今回は、当社が生業としている事業再生に関する施策である「中小企業の事業再生等のガイドラインの策定」について確認しておきたいと思います。
このガイドラインの目的の一つとして、中小事業者の「平時」、「有事」、「事業再生計画成立後のフォローアップ」の各段階において、中小企業者、金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、中小事業者の事業再生に関する基本的な考え方を示しています。その考え方の中で極めて重要なことは、中小事業者と金融機関は平時から両者が適時適切な対応を取り、信頼関係を構築しておくことだと示しています。中小事業者が仮に有事に陥った場合でも、平時から信頼関係ができていれば、金融機関による迅速な支援が可能であり、早期の事業再生等が期待できます。そのためにガイドラインでは、平時から対応に努めることが望ましい内容を具体的に示しています。
※中小企業の事業再生等に関するガイドライン(令和4年3月)
6頁(2)債務者である中小事業者の対応 参照
当方は日頃からの支援活動において、多くの中小事業者は、上記のような対応ができておらず、金融機関との信頼関係の構築ができていないと感じています。その理由は、少しでも自社を良く見せれば融資が受けられるという誤った認識を持っているため、ネガティブな情報は伝えないからです。これは中小事業者、金融機関双方にとっての機会損失であり非常にもったいないことです。このような場合、当社のような支援機関であり外部専門家が、公正中立の立場でガイドラインにそった取り組みを支援することで、中小事業者と金融機関の溝を埋め、双方の信頼関係を強く結びつけることができると考えています。
中小企業診断士 小竹 繁夫
※中小企業の事業再生等に関するガイドライン(令和4年3月)
① 収益力の向上と財務基盤の強化
中小事業者は、事業計画を策定し、当該計画の実行・評価・改善を行うこと等で、本源的な収益力の向上を目指し、もって財務基盤及び信用力を強化する。
② 適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
中小事業者は、経営の状況、財務の状況、事業計画・業績見通し及びその進捗状況等に関して、正確かつ信頼性の高い情報を、自発的に又は金融機関からの要請に応じて、開示・説明することにより、経営の透明性を確保するように努める。また、経営情報等に関して重大な変動が生じた場合には、自発的に報告するなど金融機関に対する適時適切な開示・説明に努める。
③ 法人と経営者の資産等の分別管理
中小企業者は、法人の業務、経理、資産等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとりを、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人と経営者の資産等を適切に分別管理するように努める。
④ 予防的対応
平時から有事への移行は、自然災害や取引先の倒産等によって突発的に生じるだけでなく、事業環境や社会環境の変化等に十分に対応できないことにより、段階的に生じることが十分に想定される。中小企業者は、有事へ移行しないように事業環境や社会環境の変化に的確に対応するように努めるとともに、有事へ移行する兆候を自覚した場合には、上記①~③の対応を取るのみならず、速やかに金融機関に報告し、金融機関や社外の実務専門家、公的機関等の助言を得るように努める。また、計画の策定過程や実行過程において課題が生じた場合には、金融機関や実務専門家に早期に相談し、助言を得ることが重要である。