野焼きは懐かしい?

昨年の秋頃から2ヶ月余り、診断士の業務とはおよそ無関係の仕事をしていた。正確な場所は明かせないが、とある地方の高速道路をひたすら自動車で往復し、自車を取り巻く周辺の車両の挙動データを計測するという、ちょっと変わった仕事である。走行するルートの殆どがいわゆる田舎を走っており、田んぼで野焼きしている風景を横目で見ながら「ああ、昔の秋の空気の臭いだ、懐かしい」などと感じていた。

しかし、だんだんと秋が深まるにつれ、目に入る野焼きの数が尋常じゃなくなってきた。あちらこちらで煙が上がり、視界が霞み、酷いときは車線やパーキングエリアも煙で覆われるような状況になった。さらにこの時期、インドの首都ニューデリーではやはり野焼きが原因で空が灰色になり、住民の間では呼吸器疾患がまん延するというTVニュースを観て、昔を懐かしむどころではなくなった。

季節柄、稲わらが大量に出るのは当然なのだが、それはこの地域だけではないし、私の地元にも田んぼは広がっているが、ここのところ稲わらの野焼きを見た記憶はない。この違いはどこからくるのだろう…。

野焼きについて少し調べたが、稲わら等や農作物の残さの他、ゴミなどを燃やすことでダイオキシンやPM2.5などを含む有毒ガスが発生するため、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」では、屋外で廃棄物を焼却する行為は原則として禁止されており、各地方自治体の条例においても同様に原則禁止されている。一部例外として「農業等を営むためにやむを得ない理由での廃棄物の焼却」「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの」などがあるが、この場合であっても、これらの法律や条例は、住民の健康を保護し、良好な生活環境を保全することを主な目的としており、近隣の住民へ迷惑が掛からないよう十分に注意する必要がある、とのことだった。

これは、逆の見方をすると「野焼きをしても周辺住民から通報されなければセーフ」というようにも受け取れる。そして、毎年春先には千年以上も続く伝統として大規模な野焼きが行われることもあってか、この地域は比較的野焼きに対して寛容なのだ、ということで一応納得することにした。

野焼きに関しては全国的に見てもまだ多くの課題があるが、一方、行政としても稲わらをゴミとして回収するほか、土壌へのすき込みや堆肥化の方法の指導、肥育牛の飼料としての有効活用に補助金を支給するなど様々な取り組みを進めている。これらの取り組みがさらに大きく広がり、いつか本当に野焼きの空気を懐かしく思う時が来ることを願っている。

中小企業診断士 大越 峡士郎

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