私の創業

筆者は毎年、愛知県内の某商工会議所にて、創業を志す方に向けた「創業セミナー」の講師を務めております。セミナーでは、創業に必要な基礎知識の習得、ビジネスモデルの整理、収支計画や資金調達計画の作成、すでに創業した過去の参加者とのパネルディスカッションなどを行います。セミナーを通じて、参加者の方それぞれが思い描く「私の創業」を具現化するお手伝いができれば、講師冥利に尽きるというものです。この「創業家セミナー」、例年30名前後であった申込者数が、昨年は38名、今年は46名と、年々増加しております。

「中小企業白書」によると、日本の開業率は2019年で4.2%です。最も高いのは英国であり13.5%、次いでフランスが10.9%、米国が9.1%、ドイツが8.0%となっていますので、欧米諸国と比較して低い数値といえます。一方、近年の日本の開業率推移をみると、2020年で5.1%、2021年で4.4%であり、わずかながら2019年の4.2%を上回るという調査報告がでております。新型コロナウイルス感染拡大で開業が減少したと思われましたが、意外にもその傾向はみられておりません。

NBRは今年、M&Aによる事業承継と創業のご支援を行いました。対象事業は個人事業の飲食店です。コロナ禍でも客足が途絶えない人気店ですが、オーナーは70歳を超え、後継者が不在でしたので、第三者への事業譲渡を希望しておられました。公的機関を通じて相談を受けたNBRがM&A仲介を引き受け、買い手を見つけました。


買い手は30歳男性で、当時はサラリーマン。コロナ禍で賃金が目減りしたことで創業を志すようになり、本案件に手を挙げられました。いちサラリーマンなので手持ち資金が乏しく、買収に必要な資金調達に1年程度がかかりましたが、その間に男性は、当飲食店にアルバイトとして勤務しながら、オーナーが持つノウハウの承継や、従業員との関係づくりを進めることができました。
このM&Aの結果、売り手である前オーナーは店と雇用を守って事業の事業譲渡代金を受け取り、買い手である新オーナーはすでに顧客と従業員が確保された飲食店を開業することができたというわけです。今後は、前オーナーが培ってきた経営基盤を礎に、若い新オーナーが「私の創業」を進めていかれることでしょう。

 一昔前は、創業と言えば会社を辞めて、リスクを背負ってゼロから事業を立ち上げる、というイメージでしたが、その在り方は時代の流れとともに多様化しつつあります。新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会構造や経済に大きな影響を与えた一方で、人それぞれの創業の在り方「私の創業」を考えるきっかけになったのかもしれません。

こうした動きを転機に、M&Aを通じた開廃業が進み、日本経済の新陳代謝と活性化につながることを期待したいところです。NBRでは本案件のような小規模案件や個人事業のM&Aも積極的にご支援しておりますので、お気軽にご相談いただければ幸いです。

中小企業診断士  森 正樹

関連記事

コメントは利用できません。