中小企業診断士の仕事をしていると、さまざまなタイプの経営者にお会いします。社長自らが多くの仕事をかかえ、いつも多忙で、ひたすら頑張り続ける社長がお見えです。一方では、大事な仕事を従業員に任せ、経営者固有の仕事に専念する社長もお見えです。
今回のお話は、お店を10人程度で運営している会社のM&Aのお話です。
お店を運営している社長は頑張り屋さんで、現場業務を行いつつ女性従業員を束ね、長年にわたり会社を経営してきました。後継者はいたのですが、結婚を理由に社長の後を継ぐことはなくなってしまいました。さぞかし社長はがっかりしたことと思われます。そのような中、社長は大病を患ってしまいました。
そのお店は、地域にとって必要なお店で、急にお店がなくなってしまうとお客様が困ってしまいます。そのような状況のため、NBRにM&Aのお話が舞い込んできました。弊社で買い手を探し、無事に基本合意契約を締結。買収後の統合プロセスであるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)は契約していませんでしたが、株式譲渡契約前に業務面のすり合わせを行っていました。
売り手企業は、社長自らが会計ソフトに経理情報を入力していました。大きなお金も社長が管理し、従業員に経営情報を開示していませんでした。後継者ですら決算書を見たことがないという会社も多数ありますので、ごく普通の運営方法だと思われます。
一方、買い手企業の社長は、クラウド会計ソフトを導入して、経理情報を従業員に入力させ、部門利益を従業員に管理させる方針を示しました。お店で必要となる経費の管理も任せ、部門利益を賞与に反映させる方針を併せて示しました。
今までと管理手法が異なると従業員が戸惑うことを心配しましたが、買い手企業の社長はM&Aの経験者。今までも、売り手企業の運営方法を買い手企業の運営方法に合わせているので、心配ご無用とのことでした。売り手と買い手で運営方針が異なると、社長同士で軋轢が生じることも心配しましたが、売り手企業の社長は買い手企業の社長の手法に心酔。買い手企業の社長の下で働きたいとの申し入れがあったほどでした。
基本合意契約では引継ぎ後に退任することになっていたため、当初の予定通りに話を進めさせていただいたが、売り手と買い手の社長が良好な関係を築いていただいたことは、本当にありがたいことです。
売り手企業の社長は、年下の買い手企業の社長に従業員の活かし方を教わり、お店に残ってその経営手腕を見届けたいとの気持ちになったのかもしれません。
中小企業診断士 西田学